就職活動を控えたマスコミ志望の大学3年生、水越千晴。彼女と仲間たちの就職活動を終えるまでの約1年の葛藤の話。
他の人がこの本を読むとどう思うんだろうか、と読みながらも思ったし、読み終えても思った。
たとえば就職活動を控えた6年前の僕が読んだらどう思ったか。
本の題名通り、就職活動を巡って話は展開するわけだけど、主人公である水越千晴たちの就職活動に伏流している労働観が単一的だったので、そこをもっと多様に描いて欲しかった。
彼女たちの第一優先は“どこの”企業で働きたいかだし、その企業は決まって都心(に本社がある)の大手。
どういうふうに働きたいとか、どんなところでも働かなければならないとか、働かなくてもいいでしょうとか、「マスコミじゃないかもしれないけど、町工場の印刷屋にしたよ」とか、そういうのをもっと見たかった。
彼女たちに他の選択肢や視点がないのだ。こういう大学3年生もいるのかしら。きっといるのでしょう。
- 不安なのはただ内定がでないからではなかった。
- 自分の未来の場所がこの社会のなかにない。
- 就職できないことよりも、そちらのほうがもっと大きな不安だった。(P.356)
居場所はある。田舎の役所にもある。地方の中小企業にもある。セブンイレブンにだってある。最初から前提としてそういう場所を排除しているのを、僕はどうかと思う。
絶対大手マスコミ!がいてもいいし、いるべきなのだろう。でも同時に、そいつを痛烈に批判したり、大いに疑問を持ったりするような奴がいて欲しかった。
「どこの学校に行くとか、どこの企業で働くとか、たしかに大きく人生を左右する出来事ではある。でも、いつだって人生は決まらん。決まっていくだけや。どこだってええんや。一緒に歌おうや。レット・イット・ビー。」
そんな怪しげなおっさんが登場してもよかった。
僕は石田衣良さんを初めて読んだのですが、石田さんは誰に向けて(どんな読者を想定して)この話を書いたのでしょう。たしかに個人的に良弘はいい男だし、恵理子も才色兼備で素晴らしい。他の登場人物もそれぞれだ。けれど、やっぱりみんな同じに見えてしまいました。
周囲が同じだと自分の正誤判断が、同じようなものたちの差異でしか認められづらくなりそう。
ちなみに自分自身のとてもふわふわとした就職活動も少し思い出した。僕は企業説明会や集団面接などで発言する際に「御社」を使う人が好きではなかった。僕にとってそれは背伸びではなく気取りだった。就職活動が修飾活動にすり替わっている。
石田衣良さんといえば、「池袋ウエストゲートパーク」はあまりに有名だから、「4TEEN」を読んでみようか。
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