今日の夕方18時前、母親からメールがきて何だろうかと思ってみてみたら、笹井さんが逮捕されたということだった。驚いた。ほんとうにえらいことになったと思った。さっき帰宅して(今日は珍しく仕事がこんな時間になった)、ネットでニュースを聴いた。笹井さんが「笹井保男容疑者」になっている。アナウンサーが“ササイヤスオヨウギシャ”というときの“ササイ”の発音がなっていないと思った。“些細”のアクセントではなく、“固い”のアクセントが本当である(僕たちの間では)。
衝撃を受けたが、それと同時に、不思議と大したことはないとも思えた。笹井さんなら大丈夫だと思ったからだ。何が大丈夫なのか、説明はしづらい。
しかしもしもたとえるなら、鈴木宗男が逮捕されたときの松山千春の気持ちはこういうものだったのではないだろうか。堀江貴文が逮捕されたときの茂木健一郎の気持ちや、(逮捕はされていないが)島田紳助のときの多くの彼に対する恩を感じている芸人の気持にも共通するものがあるような気がする。
もちろん笹井さん自身も、公私含めて周りの人も大きな影響を受けるには違いない。けれど、きわめて抽象的に大丈夫、問題はない、と心底思える。
笹井さんは父親ではないが、笹井さんは僕に「俺はお前の父親みたいなもんやでな」と言ってくれた。僕が市役所に入った2006年の4月に飲みに連れて行ってもらったときのことだ。密かに僕は感極まった。
笹井さんは僕のことを僕が生まれたときから知っている。僕が生まれる前から父親と付き合っていて、生まれてからも家族ぐるみで付き合っている。けれど、笹井さんが僕に「俺はお前の父親みたいなもん」と言ったのはそういう意味に加えて、父親と人間が似ているからであった。
僕が市役所に入庁する前は年に何回か会うだけだったが、入庁して建築指導課に配属されたとき、笹井さんは隣の建築住宅課の係長で毎日顔を合わせることになった。入庁間もないころ、笹井さんが僕のことを「タカヒト!」と大きな声で呼ぶことが何度もあった。僕と笹井さんの関係を知らない周りの先輩方は驚いていた。そんな笹井さんのおかげで、僕はいろいろなきっかけを先輩方から与えてもらった。親の七光りならぬ、笹井さんの七光りかもしれないが、後を活かすのはどうせ僕の人間なのだから素直にありがたいと思った。
僕が市役所に在職しているとき、もっとも一緒に飲みに行った(連れて行ってもらった)回数が多いのは同期でも職場以外の仲のいい友人でもなく、笹井さんだった。そしてその場にはしばしば父親がいた。なので僕は、父親とその友人のおっさんとしばしば飲む機会があるという世の中の20代ではたぶん大変に珍しい境遇に置かれることになった。
僕にゴルフを教えてくれたのも初めて一緒に行ったのも笹井さんだった。2月の東建多度カントリーで最後の方は雪がちらついて感触も鈍り、何が何だかよく分からなかった。僕のクラブは笹井さんからもらったものだし、買い換えた中古のドライバーも笹井さんが一緒に見に行ってくれたものだ。
「公僕」ということばを僕に教えてくれたのも笹井さんだった。そんな人間が逮捕されるか、そんな公僕は嘘っぱちだ、と人様は言うかもしれないが、僕にとっての「公僕」は笹井さんの「公僕」である。笹井さんの「公僕」には軸に(俺とお前(ら)という)二人称の人間があった。誤解を招きそうで恐いけども、薄っぺらでただの責任回避やエクスキューズにしか使われないような「コンプライアンス」は正しく軽視していた。
建築指導課でも建築住宅課でも、確認申請をみたり、決裁をあげたり、図面や設計書(見積書)をチェックするのは仕事ではないと言っていた。そんなものは当然のことだと。仕事とは、人間をつくることだと言っていた。組織内外に関わらず、他者に向けた自分という人間をつくり、それをもって関係を築く(学び、伝え、妥協し、納得させ、協力する等)ことなのだと。今の僕は設計事務所勤務で、毎日数字や図面を追うのが主になっているので、働き始めたころにこのようなマインドを扶植してくれたことは、これからも働き続ける上で大きな財産になった。
僕は別に「笹井さんはこんなにすばらしい人なのに、逮捕なんてされるはずがない。何かの間違いだ」などと言いたいわけではない。
内情や経緯がどうあれ、このようになったことは事実であるし、報道によると笹井さんも容疑を認めている。たしかに法の上で法に触れたということにより、法に処せられることになる。あえて言ってしまえば、(僕にとっては)それ以上でもそれ以下でもないのだ。
そうはいっても僕が未練がましいというか、残念なのは、桑名市はこれからメディアからも市民からも議員からも批判を受けるわけだが、その際に「“笹井さん(または笹井)”がこういうことになったのにはどういう理由や経緯があったのだろう」という視点がおそらくは提供されないことだ。だいたいがシステムや制度の問題あるいは長(今回でいえば市長)の属人的な資質の問題として論じられ、名前のある当人たちの資質はさも当たり前かのように排斥される。もしも考慮されることがあったとしても、それはシステムや制度の問題などであるということを強化するための要素として取り上げられてしまう。少年犯罪が「現代社会の闇」なんてことばでひっくるめられてしまうように。
とりあえず見守る。
きっとまたそのうちに「タカヒト!」と僕がびくりとするくらいの声で言ってくれる。
【中日新聞(CHUNICHI WEB)/2011年10月4日23時54分】より
三重県桑名市発注の工事で最低制限価格を漏らしたとして、愛知県警は4日、競売入札妨害の疑いで、同市桑名駅周辺整備事務所主幹の笹井保男(56)=同市矢田、食品関係会社アルバイト尾崎勝彦(73)=同市大貝須、マルマ工務店社長伊藤利光(55)=同市堤原=の3容疑者を逮捕した。
容疑では、笹井容疑者は市建築住宅課課長補佐だった2009年4月下旬~5月上旬、大和小学校体育館の耐震補強工事で、最低制限価格が予定価格の84・71%に当たることが書かれた入札内申書を市役所内で尾崎容疑者に見せ、尾崎容疑者はこの数字を伊藤容疑者に教えたとされる。
5月中旬、市内八社が参加した一般競争入札で、伊藤容疑者のマルマ工務店が、最低制限価格と同額の4598万1600円で落札。予定価格は公表されているため「84・71%」が分かれば、非公表の最低制限価格を計算できた。
最低制限価格は、極端な安値の落札による工事の品質悪化や下請けへのしわ寄せを防ぐために設定される。この価格を上回り、かつ最も安い金額の業者が落札する。
県警などによると、尾崎容疑者は水谷元(げん)市長(55)の私的な運転手として、市役所内に頻繁に出入りしていた。伊藤容疑者は水谷市長の高校時代の同級生。伊藤、尾崎容疑者はともに市長の後援会員で、選挙支援などを通じて知り合った。
県警は、伊藤容疑者が工事を落札するため、尾崎容疑者を通じて、担当の笹井容疑者に価格漏えいを依頼したとみており、金銭授受の有無も調べる。
市によると、笹井容疑者は1978年採用。2005年春に建築住宅課に配属された。事件当時は最低制限価格を算出する立場にあったという。
水谷市長は4日夜、会見を開き「事件は大変遺憾で、市民に心からおわびしたい。昔から知っている後援会の人たちが事件を起こしたことは大変残念だ」と陳謝した。
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