<はじめに>
地震から4ヶ月半。そのとき大阪にいた僕は被災者ではありません。そんな僕の頭にはどのようにあの地震が、震災が「記憶」されているのか。そう言ってみて気づいたのですが、僕の中では「記憶」なのです。しかし、被災地の方々にとってはまだまだ「記憶」ではありません。それは思い起こされることではなく、今も継続して進行中の現在なのです(と想像する)。昨日(2011年7月23日)も、13時34分頃に宮城県沖で地震がありました。マグニチュードは6.5、岩手県では震度5強の所もありました。
震災以後、自分に何ができるか、と声が声高に、無数に叫ばれました。例に漏れず、僕も心中で発しました。できることはたくさんあるだろうけど、地震を振り返るというのもひとつだと思います。そんなわけで、一昨日に読んだ「超巨大地震に迫る-日本列島に何が起きているのか-」(大木聖子・纐纈(こうけつ)一起/NHK出版新書)について書きたいと思います。
(立派にいえばそうだけど、僕はあるところで大木先生の講演を聴いて以来(震災以前です)、ほとんどファンのようになってしまったので、というのもあります)
<真摯な佇まい>
【本書が地震というものを理解するのを助けることで、日本人が地震を正しく恐れられるようになることを節に願う】(P.21)
【今までの見てきたのは瓦礫じゃない、ここに暮らしてきた人の生活であり、大切な思い出なのだ。(中略)どうして…今はむなしく響くこの問いだけを、何度も繰り返した】(P.60)
【これを聞いて、怒りが込み上げた。(中略)東京においてもあれだけ大きく不気味なほど揺れたのに、3mの大津波警報とはどういうことか】(P.79)
【私は、いつか君たちが津波にあったときに絶対に生き延びられるように、と思って講義をしただろうか。結局私だって、巨大津波が来襲することを現実的に考えていなかったのではないか。自分の不甲斐なさに愕然とした】(P.202)
本書では、地震や津波の発生機構、それに引き起こされた現象、現在の地震科学の限界、防災についてが主に語られています。
もちろんこれらも勉強になったのですが、僕の目をもっとも惹いたのは、著者の地震科学及び(東京大学地震研究所広報アウトリーチ室所属という)自身の活動に対する真摯な姿勢でした。それが伺える部分をいくつか上に引用しました。大木先生は1978年生まれでまだまだ若いです。これからもそのような思いをもって、自分のことばで働きかけていけばきっと望むこと(それは恐らく正しいことで、みんなの命や財産を救うことにつながること)が少しずつ実現されていくはずです。若輩者の僕にこんなことを言う資格はないかもしれませんが、お題目ではなく本当に、ますますのご発展をお祈り申し上げたいです。本書で、序章「ドキュメント3・11」として地震発生時の自身を振り返った部分や、最後の「あとがきにかえて」で書かれている部分はそのような意味でぜひ読んで欲しいです。彼女の姿勢は、地震科学の“研究者”であり、広報アウトリーチ室で“一般社会に対して教育・普及等の働きかけを行う者”でもあるという立ち位置のひとつの正しいあり方だと思います。
<やっぱり避難が大切>
震災以後に読んだ河田惠昭「津波災害」でも取り上げましたが、本書でも言われているのが、「避難の大切さ」です。
本書でも
【多くの人が、予知と防災とを混同している。仮に予知ができたとしても、地震災害への備えが必要だ】(P.196)
と言っているし、“仮に”とあるようにそもそも(世間で思われているような)予知はできていません。また、津波防災に対しては当然ハードとソフトの両面の整備が重要ですが、
【ハードは被害を軽減できるものの市民の命を完全に守ることはできず、最終的にはただシンプルに「高いところへ逃げる」というアクションをとれたかどうかに集約される】(P.144)
とあります。
ではソフトをどう充実させたらよいか。防災教育です。このことに対して、群馬大学の片田敏孝先生らが協働して取り組んだ岩手県釜石市の事例や、大木先生自身が関わった東京都板橋区高島第一小学校の事例が取り上げられています。
そこではいわゆる避難訓練についても取り上げられており、僕が小学生の頃にやったものよりはだいぶと進んで意味のあるものになっているように思います。
要は、防災教育(啓発)において念頭に置くべきなのは地震発生時に【何が人に行動を起こさせるのか】(P.150)ということなのです。地震科学が発達しても、それを末端で受ける僕たち市民の意識が後退してはならず、一緒に前進しなければなりません。
<おわりに>
本書の章立てと、概要を書いておきます(概要は僕が勝手に書いたものです)。僕は「アスペリティモデル」や「さまざまなマグニチュード」(たとえばなぜ、気象庁が幾度もマグニチュードを訂正したのか)などが特に勉強になりました。興味のある項目がある方はぜひ読んでいただけるとよいと思います。ちなみに印税はすべてあしなが育英会の震災遺児に寄付されるそうです(P.204)。
序章 ドキュメント3・11
そのとき東京大学地震研究所では
第一章 超巨大地震はどのように起きたのか
地震とは/さまざまなマグニチュード/「想定内」の地震と「想定外」の地震
第二章 巨大津波はどのように発生したのか
津波のメカニズム/津波の威力と被害
第三章 引き起こされたさまざまな現象
日本列島に起きた地殻変動/余震と誘発地震/(歴史的に)余震・誘発地震はいつまで続くのか
第四章 地震の科学の限界、そしてこれから
科学と想定/固有時新設と比較沈み込み学
第五章 防災-正しく恐れる
防災教育がなぜ必要か/防災教育事例/3・11でみえた新たな課題
終章 シミュレーション西日本大震災
西日本で起きる巨大地震とその被害想定
あとがきにかえて
(章は抜粋、その下段は僕が勝手に書いた概要です)