冤罪で最近大々的に報道されたところでいえば、足利事件（の菅家さん）や、障害者郵便制度事件（の村木さん）だと記憶しています。
報道では、警察や検察の自白を強要するような強引な取調べが非難的になされました。
菅家さんや村木さんの百万分の一か億分の一にも満たないと思いますが、警察に主張した（自分からみた）事実を聞き入れてもらえない辛さを僕も少し体験しました。おそろしいことです。
先日、あるスクランブル交差点で、東から西へ渡る僕の運転する自転車と北から南へ横断歩道を渡るおばさんが（おそらく自転車後部で）接触し、おばさんを転倒させてしまいました。人通りの多い交差点であり、その方は急いでおられたようで、僕の記憶では横断歩道を渡るたくさんの人の影から急に飛び出してきたようにみえたのです。僕の身体はその方の前を通り過ぎましたが、自転車は通り過ぎておらず自転車の後部に接触したのです（たぶん。通り過ぎた僕の視界からは消えていたので「たぶん」という言い方になってしまいます）。
おばさんのすぐに起き上がれない様子をみて、周囲の人の警察を呼べという声を聞いたどなたかが近くの交番からお巡りさんを呼んできました。これは交通事故だ、交番で話を聞くから来てください、ということで僕とおばさんは交番へ行くことになりました（あばさんが立ち上がってくれてよかったです）。
いわゆる「交通事故」になると、交番のお巡りさんだけでは処理できないようで、署の交通捜査係を呼ばないといけないとのこと。交通捜査係のお巡りさんを待って、彼らが到着すると事情聴取を受けました。
その事情聴取がおかしい。交番でそのときの様子を話していたり、接触のあった場所に行って説明していたときに感じたのですが、彼らは僕の純然たる不注意による接触であり、おばさんはその不注意による被害を被っただけなのだという先入観を堅持して、そこを変えようとしないのです。
もちろんのこと、道路交通上では歩行者より自転車の方が強者であり、自転車の方が積極的に歩行者に注意しなければなりません。接触しても僕は何ともないのに、その方は転倒し、肘をすりむき、腰を痛めたという事態は、僕が案ずるべきことであり、おばさんが僕を気遣う必要は全くありません。しかし、それはそれで、事実はまた別の話です。接触するのを避けがたいということもあります。僕から視認できない位置で急いでいたおばさんと、歩行者のそばをよこぎった僕の自転車のタイミングがあえば接触してしまいます。
なのに、お巡りさんの見方は「自転車側の注意が足りないだけで、もっと注意していれば接触は避けられた。転倒させた自転車側にすべての非がある」というところに固着しているのです。その見方はおかしい。出発はそこで良いとしても、到着は変わりうる可能性を含んでおくべきです。僕に事情を話させるときにも「あんたから見たらどうやった？」と訊いて、僕が「あの方も急いでいたみたいで、見えなかったんです」というと、「あんたから見たらな。でも歩行者からみたら自転車が急に前に現れるとは思わんで」となる。おばさんは接触し、仰向けに転倒したときの状況をまったく覚えてないと言っているのに、自転車には前面から接触したのであって、背面でバッグや服がひっかかったかもしれないという可能性をあげることもしない。僕が接触した感覚があまりなかったこととおばさんがまったく覚えてないということを合わせたらなら、そういう可能性も考えるべきだと思います（結果的に、今回は違いそうですが）。要は「自転車の不注意による接触事故」という典型例に落とし込みたいのです（と感じてしまう）。たしかに自転車の不注意による接触事故ですが、そこには「自転車の不注意のみによる」ということが含意されています。
お巡りさんにとっては、たくさんある歩行者と自転車の接触事故であって、過去の分かりやすい（あるいは処理しやすい）類例に落とし込んで次々に処理しなければならないものかもしれませんが、おばさんと僕にとってはそのようなものではありません。
お巡りさんにこれから僕はどうするといいんですかと訊くと、相手との話次第だが人身事故という扱いになると、書類送検や懲役、罰金の対象ともなりうる、と言われました。そうですか、と聞いていたのですが、お巡りさんはこちらの顔をまったく見ずに、違うほうをみて話しているのでますます不信感のようなものを感じてしまいます（よくないのですが）。
こんなふうに人の話を聞きたいところしか聞かないという構えが属人的なものならよいのですが（よくはないけど、まだよい）、警察全体的に比較的濃いとするとほんとうにおそろしいです。
当然、僕がこのように言っていることだって、先入観なり思い込みがあるかもしれません。でも、正しくない先入観や思い込みがあるかもしれない、と自覚的なのと自覚的でないのはだいぶ違うと思うのです。
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