TwitterのTLで見かけてジュンク堂天満橋店で購入。
一緒に鷲田清一『「聴く」ことの力-臨床哲学試論-』も購入。
池上さんと津田さんの対談形式で、タイトルのとおりメディアの仕組みについて語っています。
各メディア(新聞、テレビ、SNSなど)は現状どうなのか、これからどうすべきか、それらとどう付き合うかについてお話されています。
対談形式だし、とても読みやすく、またお二人のメディアに対する誠実さ(ひいては読者に対する誠実さ)が伝わってきました。
池上さんは
- もっと言えば、「自分が何らかの意見を主張することで、世の中を動かそう」
- という考えをもつこと自体が、
- ものすごく不遜な態度だなとも思っているんです。(P.150)
とか
- 私は、「真実を伝える」という言葉は嫌いです。
- 私にはそんなことできないと思っています。
- ただ、事実を伝えることはできる。
― でも、どの事実を選ぶかによって、そこで描かれるものは違ってきます。
(中略)
― それが、とても怖いと思っています。 (P.154)
と言っています。
このことばはおべんちゃらでない、と感じさせてくれるところがえらい。
津田さんの言では、
― たぶん、その「情報が伝わった」喜びを味わうために
― 僕はジャーナリストをしているんだろうなと。
― その喜びはいまだに続いています。
― だから、僕はどのメディアも同じように好きなんです。
― テレビも新聞もネットも (P.187)
とか、
今の時代を指して、
― 誰かがみんなを引っ張る時代でも無いと思うんです。
― みんなが物事の仕組みを理解して自発的に動いてもらわないといけない。
と言っています。
僕はこれらがお二人のメディアに対する誠実さを表していると感じました。
メディアに対する誠実さとは、これを過信せずに、可能性を見据える態度だと考えています。
情報の送り手と受け手を過大にも過小にも評価しないようこころがけること。
価値中立性を標榜しても、完全な中立性はありえず、何らかの利害が生じることを自覚すること、等。
こういう方たちは信用したくなります。
具体的に僕がへえーと特に思ったのが以下の点。
聞いたことがあるものもありましたが、改めて読むと改めて思います。
・ 偏向報道の要因は圧力だといわれるが、そうでもないこと
・ 今の新聞は事の前提の記述が省略されており、津田さんでも分かりにくくなっていること
・ 政策ではなく政局報道が多いのは、そのほうが報道が楽だからという部分が大きいこと
・ 「アラブの春」にはアル・ジャジーラの存在が大きかったこと
・ 日本の新聞発行数1,2,3位が世界のそれであること(日本は特別多い)
とりわけ、偏向報道の要因が何らかの圧力を受けてのものであることはほとんどない、
というのは僕には有意味でした。
* * * * * * * *
世の中におけるメディアの力はとてつもなく大きい。
メディアが伝える情報や伝え方が僕たちの言動をある程度形作っている。
つまり、僕たちに対するある程度の操作が可能だということ。
なら、メディアが僕たちに害悪を及ぼすと分かっていても、自分たちに都合のよい情報を、都合のよい伝え方をすることは、肯定はできないけど分からない話ではない。
そう思うと、メディアというものは何かとてつもなく巨大で、巨大なのは分かるけど霧に囲われていて、その巨大さや輪郭が窺い知れない存在として浮かんでくる。
要は大きな力を持った得体の知れないものに映ってくる。
もっとざっくばらんにいえば、オトナの世界は分かんねえや、といったところ。
得体が知れないからメディアが選択する言動の理屈が分からない。
理屈が分からないから得体が知れないのではなく、その逆。
すると、僕たちはすぐに簡単な話で済ませようとする。
想像力を働かせない。
そのひとつが、“何らかの圧力による”という陰謀説。
何か大きなお金と権力(スポンサーや政府等)によって、報道は偏向しているのだ、という話。
いや、そういう部分もないことはないのだろうけど、そればかりではない。
それよりは単に記者が怠惰であるとか勉強する時間がなくてどうすればいいか分からなかったとか、
組織内の内輪の対立とか、人が足りないとか、
政治記者であれば政治家の気質に惚れて悪い事実を書きづらいとか、
そういうこともままあるんですよ、ということを池上さんから聞けたのがよかった。
最近僕がしばしば思い出す内田さんのことばをまた思い出した。
― 「大人」という概念は、
― 「ここにある秩序以上の秩序」なんかどこにも存在しない、
― 「人間の知を超える知」なんかどこにも存在しないということを
― 「子ども」に教えるための詐術的装置あった、
― ということが分かったときに「子ども」は「大人」になる
(『期間限定の思想-「おじさん」的思考2-』 内田樹 /角川文庫/P.34)
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