大勝軒にて

戦うとはどういうことか。
ざっくばらんに言って、
「負けられん」という気持ちによって言動していることだ。


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眼前にふたつのどんぶりがある。
ひとつは牛丼家のどんぶりほどの大きさで、
そこには瑞々しく光った中太の卵麺が溢れんばかりに充填されている。
それよりは少し大きめのもう一方には、
動物性脂によるきらめきを放った豚骨醤油色のスープが湛えられている。


うまそうだ。
しかし。
多い。
見た瞬間に多い。
これでも麺は中盛りだという。


そのとき僕は、大阪大勝軒にいた。つけ麺の店。

食べ始めたはいいが、途中で案の定満腹感が僕を襲ってくる。
満腹感に襲われる、ということは通常ないことだが、
このときはたしかに襲われた。
まだ半分くらい麺が残っている。
隣で同じものを食べている中居さんを見ると、もう食べ終わりそうだった。
不覚。
いくらか急ぎめで食べていたのに、こんなにも差を開けられるとは。
僕もかつては自他共に認める早食い能力を有していたのに。
しかも中居さんはあれだけのボリュームを吸収したというのに、
けろりとしている。
不覚は落胆に変化しようとしていた。


そのときに思ったのだった。
「負けられん」
かつての栄光のために、僕を早食いと認めてくれた人のためにも。
しかもこれは中盛りではないか。大盛ではない。
現役を引退した身だ。
大盛りに負けても沽券は保たれるだろう。
しかし中盛りには負けられん。
ましてや横には葛藤の後を微塵も見せずに食べ終えた先輩がいる。
くそ。
やってやろうじゃねえか。
太ったらまた走ればいい。


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何とか食べ終えて帰宅の途につく。
ものを食って体力を消耗したのは久しく忘れていた感覚だ。
帰っても何もできんやろう。
小説も読む気になれん。
途中でブックオフに寄って、
福本伸行の漫画とJON BON JOVIのCDを買った。
漫画を読み終えて、JONの声を聴いているうちに寝た。

今朝もまだ腹が重い。

仕方がないから今から走ります。


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念のために言い添えておきますが、おいしかったです。
つるりとした麺は時間が経ってもなかなかそのつるりを失わないし、
コシもしっかりとある。
スープも豚骨と魚介がバランスよくブレンドされていた。
麺とスープがもっと熱ければ、
煮卵がもっとやわらかければなおよかったのになあ。

でも次は普通盛りにしよう。
いや、でも･･･。

ちなみに聞くと中盛りは麺が４玉だって。そら多いわ。