笹井さんの勾留期限が26日で終わり、(たぶん)自宅へ帰れることになった。
家に帰ればいくらかは落ち着けるようになるだろうと想像すると、僕も少し落ち着くことができる。
そういう意味ではよかったなぁと思いながら寝たら、前日の夢には笹井さんが出てきた。
僕が実家の応接間で寝転んで本を読んでいると「おう!」と言って入ってきた。
笹井さんは・・・とまたいろいろ考えていたら、また市職員が逮捕されたニュースが入ってきた。
今度は森田さんだった。
これまでの事情聴取でも笹井さんが建築住宅課から異動した後にも疑わしい工事があると報道されていたとはいえ、実際にまた逮捕者が出ると落胆や嘆息や虚しさや哀しさや悔しさなどいろいろと入り混じった何ともいえない良くない気分になる。
僕が森田さんと一緒だったのは一年だけだったが、いいおっさんだった。僕はわりとおっさんを好きな若者だが、好きなおっさんの範疇に十分入るおっさんだった。森田さんは覚えてないだろうが、森田さんが酔ったときにしかけたいたずらのあの光景は今思い出しても抱腹絶倒である。いたずらを許容される器量はいいおっさんの十分条件であり、森田さんはそれを備えていた(と勝手に思っていた)。
笹井さんも森田さんも桑名市に勤続約30年である。僕の生きてきた時間よりも長い。昔の笹井さんや森田さんの仕事っぷりは全然知らないが、おそらく(それなりに)真面目に、たしかに善良に、適度につましく勤続されたことだと思う。その時代時代の市職員として。そして今も。
しかし逮捕という不遇な事態に遭ってしまった。法に抵触したのが事実であり、価格を漏らしたのが本人だというのに何が不遇か、といわれるかもしれないが、あえて僕は不遇と言いたい。
笹井さんも森田さんも桑名市という市に妙に自信をもっていた。しかも自信をもっていたのは制度や経済といったクールなことではなく、飯がうまいとか近くに何があるとかそういうしょうもない(気取っていえばごく主観的な)ことだ。たとえば桑名市より人口がはるかに多い四日市市や名古屋市と比べて。けれど、そういうしょうもないことに妙に自信をもてることを愛着があるというのではないか。二人とも身体だけでなく、精神もしっかりと土着していたのだと思う。
そんな二人にこの事態は不遇だと思いませんか。
森田さんは建築住宅課係長だし、笹井さんも当時は係長だ。連続して逮捕されるような言動を強いられる役職に誰がつきたいと思うだろう。中には「俺ならそうはならない」という逞しい人もいるかもしれないが、僕はその発言は信じない。そんな面倒なお役は御免いただきたいというのが人情だ。けれど、誰かがやらなければいけないから辛い。
こんなこと言っても何もどうにもならない。不遇でも違法は違法だ。
でも、せめて今は案じたり嘆いたりするのを許してほしい。
笹井さん、帰宅してから意外と好きなチョコレートを食べてひとときでも脱力しましたか。
最近寒くなってきたのでチョコレートがおしくなってきました。
【中日新聞 2011年10月27日08時58分】
三重県桑名市の入札妨害事件で、別の入札でも価格漏えいがあったとして愛知県警は26日、競売入札妨害の疑いで市建築住宅課課長補佐森田徹容疑者(52)=同市大貝須=と市内3業者の社長を逮捕。市長の私的運転手尾崎勝彦容疑者(73)=同=を再逮捕した。
ほかに逮捕されたのは平野建材工業社長の平野勉(55)=同市西別所、水谷組社長の水谷和世(66)=同、藤井建設社長の藤井富明(68)=三重県いなべ市藤原町=の3容疑者。
逮捕容疑では5人は昨年5月14日、在良(ありよし)小学校と大山田東小の体育館耐震補強工事の2件の入札で、最低制限価格を事前に把握し、この金額で落札、公正な入札を妨害したとされる。
尾崎容疑者は森田容疑者から予定価格の84・75%と84・61%が最低価格と聞き、平野容疑者を通じて水谷容疑者に、藤井容疑者には直接伝えた。在良小は水谷組が5940万円、大山田東小は藤井建設が4767万円で落札。5人は容疑を認めている。
平野建材は他2社の下請け業者。3社長はともに水谷元(げん)市長の支援者。尾崎容疑者は市長の私設秘書的存在で「市長選などで世話になっており力になりたかった」と話しているという。
桑名市では森田容疑者の前任者笹井保男・元主幹(56)=略式起訴=が2009年の大和小体育館耐震工事で最低価格を漏らしたとして、尾崎容疑者、マルマ工務店社長伊藤利光容疑者(55)とともに今月4日、逮捕された。マルマも昨年5月の同じ日に入札があった別の工事で、最低価格で落札した。名古屋地検は26日、競売入札妨害罪で尾崎、伊藤の両容疑者を起訴。笹井元主幹は罰金100万円の略式命令を受けて納付、釈放された。
水谷市長は26日、価格漏えいの常態化を「個人的倫理観の問題」と釈明。尾崎容疑者には「自分の母が毎月、報酬を払っているだろう」と説明、辞職の考えは否定した。
松田さん、はじめてコメントします。
読んで、笹井さんはまじめで仕事ができるゆえにそのポジションに配属されていたのだと思います。
私の会社でも責任のあり重要なポストには、仕事ができない人を配属されません。かんたんな仕事をやっているだけです。しかし、同じ給料かむしろ高い方がほとんどです。
それゆえ、仕事のできる人がより多くの業務を持つことになり、ゆっくり時間をかけて一つ一つの仕事に取り組めないことも考えられます。かといって違法は許せはないですが。
たまたま、その時期その仕事をやっていたために、このような境遇に遭われるのは、ほんとになぜなんだという思いでやりきれないことであろうと思います。
その後、笹井さんはどうされているのでしょうか?市役所は退職されたのでしょうか?ご家族、ご親族の気持ちを思うと、言葉になりません。
投稿情報: 匿名希望 | 2012/02/18 12:44
ありがとうございます。
その後の記事にも出ているのですが、笹井さんも森田さんも6カ月の停職で、現在はその期間中です。停職期間を終えたら復職できます。
このブログでも書いたような気がしますが、僕の短い人生の中ででもっとも「不遇」ということばを身近に感じた出来事だったように思います。
投稿情報: 松田貴仁 | 2012/02/21 00:08